
IT・AI活用 Ready状態とは何か
はじめに
本記事は「中小企業のためのIT・AI活用準備ガイド」シリーズの第1回です。
- ITツールやAIサービスを導入したのに、思ったほど成果が出ない
- 現場では使われず、入力ルールはバラバラで、結局これまでのExcelや口頭確認に戻ってしまう
- AIを試してみたものの、業務でどう使えばよいのか分からず、個人レベルでの作業での利用にとどまっている
中小企業やスタートアップ企業でIT・AI活用についてのお悩みをお聞きしていると、このような話が後を絶ちません。
これは「ITが使えない」「AIが期待外れ」という結論に安易に結びつけていい話ではありません。
なぜなら多くの場合、問題はツールやAIそのものではなく、ITやAIを活用する上での会社・事業の状態にあると言えるからです。
ITやAIは、業務の曖昧さを自動的に整理してくれる魔法ではありません。
魔法を期待してしまう気持ちは理解できますが、その気持ちはIT・AI活用にはつながっていないのです。
業務で安定してITやAIを活用するには…どのタスクが、どの情報を受け取り、何を行い、何を次のタスクに渡すのかが整理されている必要があります。
「ITやAIを活用する上での会社・事業の状態」とはこの整理が行き届いていることを指しています。
株式会社ワザーップでは、このようにITやAIを活用するための前提が整った状態を「IT・AI活用 Ready状態」と呼んでいます。
この記事では、IT・AI活用 Ready状態を、業務・タスク・データの関係から具体的に説明します。
ITやAIの「導入」ではなく「活用」を重視する理由や、IT・AI活用 Ready状態という考え方が生まれた背景、SWITCHサービスシリーズ全体の考え方については「IT・AI活用を失敗しない為に ― SWITCHサービスシリーズのコンセプト」をご覧ください。
IT・AI活用 Ready状態とは
結論から書きましょう。
会社の事業は複数の業務で構成されています。業務は、複数のタスク(作業)で構成されています。
IT・AI活用 Ready状態とは、業務を構成する各タスクが、内容と受け渡し方法の定義されたデータによって連携している状態です。
これは以下とは違いますが、以下をもって構造化していると認識している方はとても多いです。
- タスク担当者=タスクの責任所在が決まっている
- タスクの実施順=手順が決まっている
このような状態がなぜITやAIを活用する上で必須なのか?
それは、ITやAIは構造化された入力・処理・出力の前提がないと業務において安定的に活用しにくいからです。
このことを次にお話ししましょう。
なぜReady状態がIT活用の前提になるのか
まずはIT活用の話からです。
ITは、決められたルールに沿って作業を実行し、データや業務の進行状況を安定して管理することに強みがあります。
たとえば、情報の登録、通知、集計、転記、承認フローの管理などは、条件や扱うデータが明確であれば、ITによって効率化しやすいタスクです。
一方で、同じ業務であっても…
- 担当者ごとに入力する内容が違う
- 作業の完了条件が決まっていない
- 例外時の対応がその場の判断に任されている
…といった状態では、ITに何を実行させ、どのデータを管理させるべきかを安定して定義できません。
そのままツールやシステムを導入すると、業務に合わない入力項目が増えたり、二重入力や確認作業が発生したりして、かえって現場の負担が増えることもあります。
IT・AI活用 Ready状態では、業務を構成するタスクと、各タスクが扱う入力・処理・出力、タスク間で受け渡すデータを整理します。
この前提があることで、どのタスクをITに任せるのか、どのデータを管理するのか、どの条件で次のタスクへ進めるのかを具体的に検討できるようになります。
つまり、IT・AI活用 Ready状態になるということはITツールやシステムを選ぶための準備だけでなく、ITを業務の中で継続的に機能させるための土台を作るという意味になります。
中小企業のIT活用がうまくいかない原因については「中小企業のIT活用がうまくいかない本当の理由(後日シリーズ3本目として公開予定)」で、ITが業務の中で担う役割については「ITの役割は『作業の代行』と『データ管理』である(後日シリーズ8本目として公開予定)」で詳しく解説します。
なぜReady状態がAI活用の前提になるのか
次にAI活用の話です。
AIは、文章の要約、情報の分類、内容の整理、判断材料の提示など、人の認識・理解・判断を支援することに強みがあります。
そしてAIはITの場合とは違って、入力された情報が不足していたり、業務上の前提が曖昧だったりしても、それらしい内容を出力することがあります。
個人のアイデア出しや調べ物であればこの柔軟さが役立つ場面もあります。
しかし、業務上の目的やルールに沿ってAIを活用する場合は、一般的に正しそうな出力ではなく、その目的やルールに合った出力が必要です。
そのためには、少なくとも次のような前提を整理しておく必要があります。
- AIにどの情報を渡すのか
- AIに何を整理・作成させるのか
- どのような出力を期待するのか
- AIの出力を次のタスクでどのように使うのか
- どの範囲を人が確認・判断するのか
たとえば、問い合わせ対応でAIに返信案を作成させる場合、問い合わせ本文だけでなく、顧客情報、契約状況、過去の対応履歴、回答時のルールなどが必要になることがあります。
また、AIが作成した返信案をそのまま送信してよいのか、担当者や責任者が確認すべきなのかも、業務上の条件として決めておく必要があります。
IT・AI活用 Ready状態では、各タスクが受け取るデータ(入力)・行う処理・次のタスクへ渡すデータ(出力)を整理するわけですが、この前提があれば「AIに渡す情報」「AIが支援するタスク」「人が判断する範囲」を具体的に検討できるようになります。
つまり、IT・AI活用 Ready状態になるということはAIを使えるようにするためだけの準備ではなく、AIの出力を業務の中で安全かつ継続的に活用するための土台を作るという意味になります。
AI導入前に業務を整理する必要性については「なぜAI導入の前に業務整理が必要なのか(後日シリーズ2本目として公開予定)」で、AIが業務の中で担う役割については「AIの役割は『判断支援』と『情報の構造化』である(後日シリーズ9本目として公開予定)」で詳しく解説します。
中小企業では「回っている業務」ほど注意が必要
中小企業やスタートアップ企業では、業務が柔軟に回っていることが多くあります。
- 少人数で対応している
- 担当者同士の距離が近い
- 社長や責任者が全体を把握している
- 状況に応じて、その場で判断している
これは大きな強みです。
中小企業やスタートアップ企業のスピード感は、この柔軟さによって支えられています。
もちろん「回っている業務」でも、事業拡大や質の向上を考えるとIT・AI活用と向き合わないわけにはいきません。
IT・AI活用を考える場合には、「業務が回っていること」と「IT・AI活用に適した状態であること」は分けて考える必要があります。
人の経験や気配りで業務が回っている場合、その判断基準や受け渡し情報が明文化されていないことがあります。
- 担当者が変わると対応品質が変わる
- 社長に確認しないと判断できない
- 記録が残っていないため、過去の対応を再利用できない
こうした状態では、ITやAIを活用しようとしても成果につながりにくくなることは、前のセクションで説明したとおりです。
特に中小企業では、組織や大まかな業務フローは定義・整理されていても、実際に業務を動かしているタスクレベルまでは整理されていないことが少なくありません。
- 業務フローはある
- 担当者も決まっている
- しかし、タスク間でどのデータを受け渡しているのか、どの判断基準で次に進んでいるのかは、担当者の頭の中にある
たとえば請求業務であれば、「請求対象確認」「金額確認」「請求書作成」「送付」「入金確認」というタスクがあります。
もしこれらのタスクが担当者の記憶や口頭確認でつながっているだけなら、その担当者がいる限りは業務は回りますが、IT・AI活用 Ready状態とは言えません。
このような属人状態をIT・AI活用 Ready状態に近づけるには、各タスクとデータの関係を見える形に構造化する必要があるというわけです。
IT・AI活用 Ready状態の作り方 – 業務・タスクの構造化
Ready状態がどういうものかという考え方はご理解いただけたと思います。
次に業務をタスクレベルから構造化する方法について考えていきましょう。
「入力・処理・出力」はタスクごとに考える
構造化はタスク単位ですべてのタスクに対して行います。
1つのタスクが複数タスクから入力を受け取る場合もありますし、1つのタスクの出力が複数のタスクの入力になるケースもあります。
タスクの構造を考えましょう。
- 入力:タスクが受け取るデータや前提条件
- 想定される出力:タスクに想定される出力結果
- 処理:タスクで行われる作業や判断
- 実際の出力:タスクの結果(=次工程タスクに渡すデータ)。「想定される出力」との差分は明確にし、タスク管理サイドに提供
となっています。
これを業務定義において、対象業務を構成するタスクについて定義することが構造化の内容となります。
面倒くさい感じがしますか?
属人化して、都度その場で考えて対処する方が簡単と思えるかもしれません。
先にも書いた通り、その形はスピード感や柔軟性を重視するケースでは正義です。
しかし、規模や質を高めることは、そこに留まっていては実現がとても難しくなります。
業務全体をタスクレベルで設計し、誰でもその業務を実施できる/状況を把握できる/課題・問題に気付けるというのを可能にすることで、事業の拡大や質向上を追求できると思います。
そして、その裏側で事業・業務・タスクをサポートするのがIT・AI活用という手段です。
面倒くさいことは全然ありません。むしろ、後でスムーズに動けるようにするにはIT・AI活用 Ready状態を獲得しておく方が、便利ですし、コストや時間を効率的に使えることに繋がります。
データでつなぐ業務・タスク構造化
構造化は業務やタスクで扱うデータの中身と扱い方を定義することです。
データとは、データベースに格納されるような会社情報・人材情報・顧客情報・製品情報…といったものだけではありません。
状況によって変化するような動的情報…例えば、社会/業界/競合情報や、在庫/注文情報や、問い合わせ/クレーム情報や、社内で出たアイデアや意見など…これらすべてが含まれます。
構造化ではこれらを業務・タスクで使える形にしていかなければいけません。
動的情報が…
- 担当者の記憶にだけ残っている
- 「あそこに書いてあるから必要なら見ればいい」と情報へのポインターだけがなんとなく宙に浮いた形で存在しているだけ
- Excelシートに追加されているだけ
- タスクの想定される出力と実際の出力の差は、想定される出力と結果を見ればわかるというだけの状態にしておく
などなど…「なんとなく在る」だけではタスクで使える形になっているとはいえません。
- データの発生するところにはタスクがなければいけない
- タスクが使える形に整えるタスクが必要
- タスクの入力/出力データ
- 内容(=意味)定義が必要
- 形式定義が必要(ファイル形式など外側の形式だけでなく、内容の表現形式も)
- 前工程・次工程との連携における受け渡し方法定義が必要
- タスクの完了条件は、入力・処理・出力というタスクの各要素においてデータが揃うこと
- 出力だけ揃っても完了とは言わないところが重要
- タスクの出力は目的ではなく手段であり、業務の一要素にすぎないことを事業責任者からタスク担当者まですべての関係者が理解しておく必要がある
IT・AI活用 Ready状態は、対象業務を構成するタスクについて入力・処理・出力が定義され、さらにそこで扱われるデータの定義もされている状態ということになります。
構造化した内容を業務カルテで共有する
ここまで説明してきたタスクの入力・処理・出力や、タスク間で受け渡すデータを定義できたとします。
定義はできても、その内容が会社全体で共有されていなければ、IT・AI活用 Ready状態になっているとは言えません。
業務の構造化は定義を行うだけでなく、事業責任者、業務責任者、タスク担当者などの関係者…もっと言うと、現在だけではなく将来その業務に関わる人も含めすべての関係者が同じ内容を確認できる形にしておく必要があります。
株式会社ワザーップでは、構造化した業務の状態を整理し関係者間で共有するための中心資料を「業務カルテ」と呼んでいます。
業務カルテでは
- 対象業務の流れ
- 業務を構成するタスク
- タスク間で受け渡すデータ
- 業務上の課題・問題など
を、ひとつの業務単位で確認できる形に整理します(実際には1業務に1PDFファイルの形で整理します)。
これにより、関係者がそれぞれの経験や感覚だけで業務を捉えるのではなく、共通の業務構造を見ながら、次のようなことを話し合えるようになります。
- どのタスクやデータ受け渡しに問題があるのか
- どの作業をITで代行・管理できるのか
- どの情報整理や判断支援にAIを活用できるのか
- どこは人が確認・判断すべきなのか
つまり、業務カルテは単に業務を記録する資料ではなく構造化した業務を会社として共有し、IT・AI活用や継続的な業務改善を検討するための土台です。
業務カルテに含める内容や作成方法、IT・AI活用 Ready状態の維持・更新にどのように活用するかについては、「業務カルテという考え方(後日シリーズ4本目として公開予定)」で詳しく解説します。
Ready状態は維持・更新する必要がある
IT・AI活用 Ready状態は、一度つくれば終わりというものではありません。
会社の事業内容、顧客、商品、組織、担当者、業界環境が変われば、業務の流れやタスク、扱うデータ、判断基準も変化します。
そのため、以前は適切だった業務構造が、時間の経過とともに現在の業務に合わなくなることがあります。
たとえば、新しい商品やサービスが増えれば、問い合わせ分類や対応方法が変わるかもしれません。
担当者や組織体制が変われば、承認や引き継ぎの流れも見直す必要があります。ITやAIの活用範囲が広がれば、扱うデータや人が確認すべき範囲も変わります。
業務の実態が変わったにもかかわらず、タスクやデータの定義を以前のままにしておくとITやAIも古い前提に沿って動くことになります。
つまり、IT・AI活用 Ready状態を維持するには業務の変化に合わせて、「タスク」「データ」「判断基準」「連携方法」を見直す必要があります。
構造化した内容を業務カルテとして共有しておくことで、現在の業務とのズレを確認し、必要な更新を検討しやすくなります。
IT・AI活用 Ready状態は、事業や業務の変化に合わせて維持・更新し続けることで、はじめてITやAIを継続的に活用できる土台になるのです。
IT・AI活用 Ready状態の確認方法や業務カルテを使った維持・更新の考え方については、「業務カルテという考え方(後日シリーズ4本目として公開予定)」で詳しく解説します。
まとめ
IT・AI活用 Ready状態とは、単に業務フローや担当者、作業手順が決まっている状態ではありません。
業務を構成する各タスクについて、入力・処理・出力が整理され、タスク間で受け渡すデータの内容と方法が定義されている状態です。
この状態が整っていることで、次のような検討がしやすくなります。
- どのタスクをITに任せるのか
- どのデータをITで管理するのか
- どの情報整理や判断支援にAIを活用するのか
- どの範囲を人が確認・判断するのか
IT・AI活用 Ready状態をつくるには、対象業務をタスク単位で整理し、各タスクの入力・処理・出力と、タスク間で受け渡すデータを定義します。
さらに、構造化した内容を関係者が共有できる形にし、事業責任者、業務責任者、タスク担当者などが、同じ業務構造を見ながら話し合える状態にすることが必要です。
株式会社ワザーップでは、そのための中心資料を「業務カルテ」と呼んでいます。
また、事業内容、組織、商品、顧客、業界環境などが変われば、業務の流れや扱うデータも変化します。
そのため、Ready状態は一度つくって終わりではなく、業務の変化に合わせて維持・更新する必要があります。
IT・AI活用 Ready状態に近づくことで、次のような効果が期待できます。
- ツールやシステムの選定・導入で失敗しにくくなる
- AIに任せる範囲と、人が判断する範囲を分けやすくなる
- 担当者変更時の引き継ぎがしやすくなる
- 業務改善の優先順位を判断しやすくなる
- 事業拡大の手段が、人員の増強だけではなくなる
中小企業やスタートアップ企業にとって、ITやAIは大きな力になります。
一方で、限られたリソースやコストを有効に使うには、いきなりツールやサービスを導入するのではなく、まず自社の業務がIT・AI活用 Ready状態に近いかを確認し、必要な部分を整えていくことが重要です。
オススメ
株式会社ワザーップのIT・AI活用準備SWITCHは、このIT・AI活用 Ready状態をつくり、維持し、その先のIT活用・AI活用実施につなげるためのサービスです。
対象業務を整理し、IT・AI活用 Ready状態に近づけるための支援を行います。
SWITCHサービスシリーズをつくった背景や、IT・AI活用に対する株式会社ワザーップの考え方については、「IT・AI活用を失敗しない為に ― SWITCHサービスシリーズのコンセプト」で紹介しています。
「ITやAIで何を導入するか」の前に、「自社の業務は、定義されたデータでタスクがつながっている状態になっているか」を確認してみてください。
自社の業務がIT・AI活用 Ready状態に近いか確認したい方、ITやAIを導入する前に業務を整理したい方は、IT・AI活用準備SWITCHの無料相談よりお気軽にご相談ください。





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